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ピックアップアーティスト

上馬場 啓介

感性を紡ぐ音色に境界はいらない

クラシックを基点にジャンルを越えたサックスはセンシティブでエモーショナル。ひとたび楽器を置けば親しみやすい表情を見せる、
豊中市立文化芸術センターのレジデントアーティストでもある上馬場さんの世界に迫りました。

サックス奏者

上馬場 啓介
Keisuke Uebaba

大阪府豊中市出身。大阪芸術大学芸術学部演奏学科卒業。関西室内楽協会会員。ソプラノ、アルト、テナー、バリトンの各種サックスによる演奏活動やレッスンを行う。 ジャンルを越えた「ニュークラシック」を提唱、新しいサウンドを生み出すユニット“SAXAS”、映像、絵画と音楽の融合を目指す新しいユニット”negimaron”のメンバーでもある。あだ名は「ウエーバー」。 第25回日本クラシック音楽コンクール全国第3位。第21回KOBE国際音楽コンクールC部門優秀賞受賞。第17回大阪国際音楽コンクール室内楽部門最高位。
上馬場 啓介

音と共に、日常が流れるように

―本番前に必ず行うことはありますか?

僕はあくまでも普段通りで、特別なことはしないスタイルを貫いています。例えば寝る時間が遅くていつも2時ぐらいなんですけど、翌朝が早くてもあえて変えないです。

本番前日には指のストレッチと肩ならし。体が硬いと、演奏表現や音色に表れます。コンディションは普段から気をつけています。電車などでは片足で立たないように、両足で踏ん張るようにして重心を整えたり。

舞台に立った時には、ホールのすべての角を見てから演奏します。空間の隅々まで響かせるイメージを持つために。見るというより、広さを捉える感じです。

―日々欠かせないことはありますか?

ちょっとずれるかもしれないんですけど、日常から頭の中にずっと音が流れています。演奏曲や、雨音や冷蔵庫のノイズのような生活音がただただ頭に入ってきて、寝付けない時もあります。だれでも音の中で生きている…ああそう、渋谷や梅田の街の音を録音して、楽器と演奏したら面白いかなとか考えたりします。ウケないと思いますけど(笑)

心と体を震わす、音色で描く世界観

―影響を受けた演奏家はいますか?

 ジャズサックス奏者の平原まことさん。ジャズというとテクニックを追求しがちですけど、音色重視の方で。うん、音がとにかく良くて琴線に触れるっていうんですかね。僕はどちらかというと、太い音よりも繊細な音色が好きで、実際に聴くと体が震えるように感じるんですよ。もちろんテクニックありきではあるんですけど、とにかく音色!僕は、まろやかで広がりのある音色のために、吹き口の部品に、一般的な金具ではなく繊維で編まれたバンブーリガチャーを使っています。

―音色を磨くために心がけていることは?

 うーん、何してるやろ?改めて言われると…。あ、音楽以外の感性を磨くようにしています。梅田に出てデザインを見たり、今どんな音楽がクールかな、とか、食器ひとつを見ても形が凝っていたり。こだわりを自分の中に蓄積する意味で街に出ます。あと僕は写真を撮るのも好きなんですけど、これも僕の音楽を再現する一つだなと思っていて、世界観ですね。世界観大事!うん。

 感性っていうのがすごく大事だと思う。想像だけでは音楽ってよくならないと思うんで。音楽には性格が出るというか、キツイ性格だとキツさが表れますし、ラフな性格だとラフな音楽になりますし、心が動くだけで演奏が変わってくると思います。

―感性が活きたエピソードはありますか?

 母校の大阪芸術大学の教授から、イベントを企画するミッションをいただいたことがあって、ピアノ、チェロの同級生3人で、男性だけの演奏会を企画しました。「男たちが奏でる音楽の世界~21世紀を担う若き音楽家たち」というタイトルで、オーケストラ25人も運営も全員男性で。クラシックというと、女性的な上品なイメージがあると思うんですが、自由さみたいなのが加わって面白かったです。チャイコフスキーのバレエ音楽「くるみ割り人形」のような聴きなじみのある曲や、シネマティックな映像が浮かぶ曲、カッコよくて聴き入ってしまう曲を集めて、ほかにはないコンサートになったんじゃないかなと思います。

現在の活動について

―現在はどのような活動をされていますか?

依頼演奏や、小学校や施設などに出向いて音楽を届けるアウトリーチ活動、レッスン講師や吹奏楽指導、コンサートやイベントの企画もしています。あとはSAXAS(サクアス)というサックス2人とピアノのバンド活動や、映像・絵画と音楽の融合を目指す”negimaron”というユニットでの活動も開始しました。コンサートを企画開催するとなると準備が大変ですが、舞台に立って拍手をもらうその一瞬が嬉しくて、そのために頑張れますね。それと僕、晴れ男なんですよ。主催者の方に喜ばれます!

基本的技法は曲の中から

―レッスンはどんな風に?

 個人レッスンは、一緒に演奏するスタイルです。やってみたい曲の楽譜を僕が作成してきて、生徒さんがメロディーを吹いて僕が伴奏できるように、デュオで仕上げるようにします。課題を与えるばかりでは続かないと思うのでやりたい音楽をやろうって。演奏途中でうまく吹けなくなったら、その都度、必要な技術や奏法などの基本に立ち返ります。

 僕は…あんまりこんなこと言っちゃダメかな、曲の中に基本的な技術は詰まっていると思っていて。権威の高いアドルフサックス国際コンクールで1位になったニキータ・ズィミンさんが「基礎練習はしない、曲の中に基本はある」とおっしゃっていて、そのとおりだなと。逆に言えば、基礎練習はその意味を理解しなければ身に着かないと思うのです。

フォルムに魅了されたサックスとの出逢い

―音楽をはじめたきっかけは?

 中学に入学した時、水泳部に入部するつもりだったのに部活がなくてどうしようかなと思っていました。友達から一緒に行ってみようと誘われたのが吹奏楽部。候補になかったです。1年生でテナーサックス、2年生からバリトンサックスを吹きました。

 僕、サックスの形に興味を持って。最初はまったく音が鳴らなかったですけど、音を鳴らすよりとにかくサックスを触るのが嬉しかったです。マニアックですよね(笑)友達から誘われなければ、今サックスを吹いていないですね。実は2年生になった時に水泳部ができたのですが、もう揺らがなかったです。

―今までで強く残っている思い出はありますか?

 いっぱいありますけど、いちばんのスランプは中学の時です。3年生最後の定期演奏会で曲中のソロを任されることになったのです。「たなばた The Seventh Night of July」という曲でした。良い演奏をしようと、リード(口元で息を吹き込み、振動させて音を出す葦の板。一枚一枚異なる)を選ぶのですが、気合いと緊張のあまりどれを選んでも良い音を出せず、プレッシャーに押しつぶされそうになりましたね。いちばん痩せました(笑)

上馬場 啓介

好きで溢れる日常の世界

上馬場 啓介

―普段はどんな音楽を聴いていますか??

 僕、普段はサックスをあんまり聴いていなくて。ピアニストのラーシュ・ヤンソンがめちゃくちゃ好き。メロディーがあって、うん、リズムにメロディーが乗っている。日常に溶け込めそうなやさしい音楽が好きですね。あとはジャズピアノのブラッド・メルドーが作る音楽の世界。サカナクションはめちゃくちゃ好きですね。ライブの完成度がめちゃくちゃ高くてこだわっていますね。マニア集団だと思います。

―趣味は何ですか?

 雑貨、とくにメガネ好きなので集めています。服も好きです。父がファッション系の仕事をしているので性格が似たというか。衣装も、これが着たいというのがあるから、店員さんと相談しながら最後は自分が選びます。

 ほかにも、クロスバイクで旅したいなとか、カメラとかアニメとか、好きなことが多すぎで。音楽から離れすぎないようにしないと(笑)食べるのも好きですし。

―好きな食べ物は?

 甘党で、フレンチトーストとか好きですね。ハーゲンダッツだと、アーモンドとミルクのジェラートが最高です!甘いものは見境なく食べます。
あと、はるまき。中華料理が好きで、西梅田にある中華料理のお店がむちゃおいしいんです。10本は食べられますね。

ジャンルを越えた「ニュークラシック」

―これからやっていきたいことは?

 ソプラノの音色には自信を持っているので、音色を活かした曲を集めて演奏したいですね。 実はやりたいこともたくさんあって!例えば、絵画や風景やアニメーションに自分たちの音楽を乗せること。音楽があるからその世界に没頭できるっていうのはあると思っています。 演奏会でいうと、客席が円形状に舞台を囲む形式とか。歌や電子楽器も使って、なんていうんですかね、僕はいつも「ニュークラシック」って言っているんですけど、ジャンルや形式に捉われずに、ジャズにもポピュラーにもどこにも定まらないような音楽をやっていきたいと思っています。

Photos 大山雄大 /  Styling, Hair&Make-up 足立詠美 /  Words 浅野晶

Photos 大山雄大
Styling, Hair&Make-up 足立詠美
Words 浅野晶

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