創刊記念対談

創刊記念対談

グラフィックデザイン×WEBで伝える
魅せるクラシックの新たな可能性

新型コロナウイルス感染症によって、世界中で公演中止という前代未聞の事態に見舞われたクラシック音楽。
長きにわたり多くの人々を魅了してきた伝統的芸術に新たな感動を生むべく、
音楽家、WEB、グラフィックデザインの立場から、これからのクラシックの魅力と可能性に迫りました。

八田克彦氏

株式会社メディアクリエイツ
WEBディレクター

八田 克彦 氏

静間佳佑氏

セレーノミュージックオフィス
代表/指揮者

静間 佳佑 氏

𠮷田淳一氏

株式会社JY DESIGN
代表取締役/OPUS編集長

𠮷田 淳一

左)株式会社メディアクリエイツ
  WEBディレクター
  八田 克彦 氏

中)セレーノ ミュージックオフィス
  代表/指揮者
  静間 佳佑 氏

右)株式会社JY DESIGN
  代表取締役/OPUS編集長
  𠮷田 淳一

音楽エンターテイメントの現状

静間さん、新型コロナウイルスを経て現在はどのような活動状況でしょうか。 

2月26日の公演以降、5か月間は本番がない状態でした。現在、大きな会場は客席を半減させたり対策をとりながら公演をはじめていますが、経営的に問題は山積みだと思います。

私はグラフィックデザインで、リサイタルなどの告知チラシ制作に関わっているのですが、八田さんはWEBという分野で、いわゆるスマートフォンだとかパソコンで配信されるものはこのコロナですごく伸びたと思うんですけど、そのあたりどうですか? 

ステイホームの機会から生活スタイルが変わってきているなかで、動画視聴やWEBでいうECサイト、通販サイトはすごく伸びているといわれていますね。動画に関してとくに視聴が伸びているのは、アマゾンプライムやドラマなどの配信チャンネルですね。好きなチャンネルを視聴できることで、これからの動画ニーズは伸びていくと感じています。

ドイツのベルリン・フィルハーモニー管弦楽団などは、特設サイトがありますが、静間さんはリサイタルやコンサートのインターネットでの配信をどうご覧になりますか。

ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団は、コロナよりももっと以前からネット配信の可能性に目をつけていましたね。世界トップのオーケストラが気軽に観られるというのは良い判断だなと、僕もよく観ていました。ただ日本のオーケストラが収益を得るために同じように真似をしても上手くいかないと思います。圧倒的なブランド力を持つベルリン・フィルのネームバリューに勝てるわけがないので。このチャンネルを観たい、聴きたいと思わせる別の理由を工夫していかないといけないですね。

付加価値がどこにあるかということですよね。日本のクラシックってどうなんですか?

静間佳佑氏

日本におけるクラシック

難しいところではありますが、僕自身はかなり可能性を感じています。というのは、日本ほど楽器に触れたことのある人口が多い国は世界でほとんどないと思うんです。例えばピアノに触れたことがある人、また吹奏楽部や弦楽部の人はクラスに3、4人はいたと思うんですよ。音楽好きのポテンシャルの高さは、前向きに捉えています。
 業界の話をすると、昔ながらのお家芸制度はあると思います。尊敬する先生に弟子入りし、門下生として伝統を守るのは大事なことなんですけども、これが強く残りすぎると新しいことにチャレンジしづらい点はあるように思います。電子チケット制で入れるコンサートはまだ少ないですし、プロのオーケストラもようやくコロナでYoutubeチャンネルを作り始めたぐらい。インスタグラムにしてもツイッターにしても、一歩出るのがどうしても遅い業界じゃないかと自分では思っています。逆にできることはたくさんありますね。

なるほど。当社も紙のチラシを作りますが、このコロナで紙の需要は急速に減ったような気がしましてね。私自身も、どこで情報を得ていたかというと、スマートフォンとかパソコンです。そこで私どもも考えていかないと、と思っています。
 グラフィックデザインのカテゴリーで気づいたことがあって、海外のクラシックと日本のクラシックは、アーティスト写真の撮り方が全然違うんです。海外のアーティストさんの写真って、音楽を感じるんですよ、ちょっと姿勢がゆがんでいても。だけど日本人はこうやるからかっこいい、海外の人がこうしているからこうする、みたいな。この人の良さって表れているのかな?と、とてもよく思います。

アコースティックの魅力

静間さんには笑われると思うんですけど、私、クラシックのコンサートを観に行ったときに必ず感じることがあって。コンセントがないんですよ。当たり前ですよね、ホールですから。配線がないのにあのすごい綺麗な音楽が流れるんですよ。これすごいなって思うんですよね。だけど今のデジタルの話でいうと、配線がないと聴けないですよね。この違い!生音との違いって大事だと思って。

僕は基本アコースティックが専門で、アンプを使うことは必要に応じてやりますけど、何かを「通った」瞬間に、まったく別の物になるんですね。スピーカーから流れるピアノの音っていうのはピアノの音ではないんです、それはスピーカーの音なので。

 しかもそのアーティストの音が、「自分の心に響く」というのも運のようなもので。話がそれちゃうかもしれないですけど、亡くなった師匠が話していたのが「私は7年に一回満足できる公演があればいいほうだよ」と。年に300公演くらいしているとしたら2,000回に一回ぐらい。その一回が忘れられないから続けるんだと思いますが、それぐらい生のコンサートって尊い。おそらくクラシックというアコースティックの人って、その感動を突きつめる世界に生きていると思うんです。一方でデジタルの世界っていうのは、均等にいい作品が何回でも聴ける楽しみがありますが。配線がないのにそれだけの音が出るって、会場に足を運ばないと絶対に体験できないことですもんね。そこに価値を感じてくださっているというのは、現場の人間にとってはとても嬉しい。

八田克彦氏

音楽性を彩る、アーティストのパーソナリティー

これからのクラシックの音楽が、コロナから新しい時代を迎えると思うんですね。世界も、音楽の世界も変わっていく中で、静間さんはどんな可能性をご覧になりますか。

これは僕の考えですが、今までのクラシックって作曲家ありきでした。ベートーベンとかモーツァルトとか有名な作曲家の曲を聴きたい、あとはNHK交響楽団とかベルリン・フィルの有名なオーケストラを聴きに行く。こういうところがお客様がコンサートに行く大きなモチベーションだったと思うんですけど、この動画の時代、ベートーベンが聴きたいなら、Youtubeで検索すればヨーロッパの名演が数えきれないぐらい出てきます。
 これからの時代は、生演奏に来てもらうお客様のモチベーションは、そこにいる演奏家の音を聴くということだと思うんですよ。オーケストラの一人ひとりのアーティストにファンがついていることがこれからとても大事になると思います。この人のバイオリンを聴きたい、このクラリネットの人が所属しているから聴きたいというファンの方が集まってくる。今、WEBの力で動画配信アプリなどの発信が昔よりやりやすくなりましたから、一人ひとりのファンを作っていくことが、これからのクラシック業界の生き残っていくひとつのすべなんじゃないかと思っています。

他業界では、コロナ以降、自分たちでオンラインで何かをやっていこうという方が増えてきていると思います。
 あと、プライベートの部分ですね。演奏している裏の日常を、人は知りたいんですよ。芸能人のSNSが伸びるのって、テレビでは見せられないプライベートな部分が垣間見れたりとか、趣味嗜好がわかったりするのでそこでファンが伸びる。オーケストラって大人数で、観に行く側は全体像で音楽を聴くイメージですが、すごく硬い表情でよい演奏を奏でている演奏家さんたちは、実際プライベートはすごくちゃらけているとか、そういうギャップでファンがつくんですね。個々の演奏者さんにファンがつけば、その人数分はコンサートにお客様が集まるということになるので、コロナが収まるまではファンを醸成する期間、次のステップに上がるための準備期間だなと、個人的には思いますね。

音楽家って面白い人多いんですよ。個性的!変わった人が多いんです。こんなことを言っていいかわからないんですけど、コンサート後の打ち上げをライブ配信したら喜ばれるんじゃないかって(笑)

僕が見たクラシックのイメージは、勝手ですけどすごく真面目。行儀よくしておかないといけなくて、ちょっと近寄りがたい。やっぱりそういうパーソナルな部分が見えてくると、そんな硬く考えなくていいんだ、というファンがまた増えてくるのかなって。

コンサートの打ち上げって、シャンパンで乾杯してナイフとフォークで食べているイメージがあるかもしれないんですが、実は普通の居酒屋で、ビールをジョッキ10杯とか飲んでカラオケ歌って騒いでいる人も多いですから。

バックボーンが見えてくると演奏を聴いていて深いものが感じられますよね。
 OPUSは第2回まで撮影が終わっているんですが、2回目のピアニストの若井さんも、めちゃくちゃおもしろくて魅力的!子育てをされている背景から、演奏にいろんな感情が見られる。私は、そういうパーソナルな部分を見せられるクラシックの媒体ってあるだろうかと考えたんですね。18年間、クラシック業界にお世話になっていますけど、有名な媒体っていうのは音楽性を出されるのが多いと思います。でも、どういう人なのかというところ、もっというと若手のアーティストさんにスポットを当てて、いわばファンをつくりたい。今までより少し角度を変えた見せ方ができればと思います。
 OPUSというのは、「作品」という意味が込められているんですよね。曲に対しての作品はもちろんですけど、人としての作品、あるいは空気感という意味でその場を切り取ったものが一つの作品になると思っています。

𠮷田淳一氏

始動!クラシックのニュースタンダード

では今の状況を踏まえて、今後のご活動をご紹介いただけますか。

以前からのレコーディングや録音のお仕事を進化させまして、ライブ配信コンサートや、収録のライブ配信コンサートを手掛けています。クオリティー高く、お手頃な予算のプランを用意しています。今後はおそらく、お客様も来られるコンサートをしながら配信するというのがニュースタンダードになっていくかなと思いますので、演奏家がやっていけることを、相談にのりながら実現していくお手伝いをさせていただきたいなと思います。

私もいま、OPUSがこれから各アーティストさんの情報が集まる情報プラットフォームのような場所になればいいのかなと思いました。OPUSが発信したものから、各アーティストさんのサイトやSNSで、どんどん拡散してもらえるとよいなと思いました。

お二人がおっしゃってくださっているような、演奏家さんもファンの方も、それを支えていかれる方もいろんな角度から、クラシック音楽っていう大きなタイトルに集っていただくプラットフォームになるといいなと思います。
 この数か月は、プロデュースにも関わってくるんですけど、ただ演奏をするのではなく、どう演奏していきたいかっていう「あり方」を見つめなおす時期だったと思うんですね。OPUSは見せ方のプロとして、本当のクラシックの良さが伝わるあり方を見つめなす媒体にしていきたいと思っています。ヨーロッパで生まれ多くの人々に愛されたクラシックの魅力を、日本の小さな島国ですけども、もっと魅力的に紹介できたらと思っています。

ありがとうございました。

Photos 樋口航 /  Words 浅野晶

創刊記念対談

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