PICKUP ARTISTS
ピックアップアーティスト
HOME > ピックアップアーティスト > 新崎洋実
その先に広がる世界を知りたくて
ソロだけでなく、アンサンブルピアニストとしても活躍し、新たなステージの可能性に挑み続けるのは、楽しみを創造し続けたいから。
まっさらな気持ちでピアノに向かい、交わる人たちとともに世界を切り拓いていくアーティスト・新崎洋実に迫ります。
ピアニスト
新崎 洋実
Hiromi Arasaki
沖縄県出身。沖縄県立芸術大学を卒業後、パリ地方音楽院(CRR de Paris)最高課程演奏家コースを審査員満場一致の一等賞で卒業、コンサートディプロマ・上級音楽研究資格を取得。ほか国内外コンクールで入賞。また姉である新崎誠実と「ピアノデュオ新崎姉妹」としても活動し、1st CD「連弾日和〜4 hands days〜」をリリース。帝塚山大学非常勤講師、豊中市立文化芸術センター第1期レジデントアーティストであるほか、琉球音楽や創作ダンスなどとの多彩なコラボレーションによって積極的に音楽を届けている。
嘘のない自分を表現したい
―今回、OpusのYoutubeで演奏された2曲はどうして選ばれたのですか?
・R. シチェドリン 2つのポリフォニックな小品より 第2曲バッソ・オスティナート
・S.ラフマニノフ(平井丈二郎編曲) パガニーニの主題による狂詩曲より
第18変奏 アンダンテ・カンタービレ
・S.ラフマニノフ(平井丈二郎編曲) パガニーニの主題による狂詩曲より
第18変奏 アンダンテ・カンタービレ
ピアノは、リズムもメロディもハーモニーも一人で演奏できる楽器です。シチェドリンの曲はその魅力が詰まっている曲だなと思って。ラフマニノフは、メロディーワーカー。演奏していても心にぐっとくる。声じゃないけど声で歌えるような作品だと思っています。年齢を重ねるごとに好みは変わっても、そのときの自分にフィットする嘘のない表現がしたいです。
―ピアノで表現することは、新崎さんにとってどういうことですか?
うーん、なんだろ…自分を、見つめること。己に向き合う時間だと思います。
―ピアノを始められたきっかけは?
私には二人の姉がいて、7つと4つ離れているのですが、お姉ちゃんたちと一緒にいたくて
ついて行ったところがピアノ教室だった!それが3歳ぐらい。楽しかったです!二人の連
弾に合わせて私が歌ったりして、お姉ちゃんたちと何かできるという喜びと、 音と音が重な
るのがただ楽しくて 。私もピアノを習い、やがて次女が音楽の道に進むと決めた頃、 私にも
気持ちが芽生えました。音楽をやっていきたい想いと、もう一つの理由として母の存在です。
「一つのことをやり続けなさい」と 継続する力を導いてくれたことが すごく大きいですね。
沖縄県立開邦高等学校芸術科音楽コースを経 て、沖縄県立芸術大学で学びました。2年間フ
ランスに留学したあと、ピアニストとして活動を始めました。
ステージをクリエイトする視点
―ピアノを続ける中で印象深かったことは?
大学の時に岩崎セツ子先生に師事したのがすごく大きかったです、私の中で。フランスで何十年もピアニストとして活躍されていた先生で、女性としても美しくて。これまでの作品への向き合い方や演奏に対する姿勢をガラッと変えてくれたというか、広く世界に「魅せる」ようなピアニスト像みたいなのを教えてくださいました。
―演奏スキルを高めるだけでなくて。
はい。年に一度の門下生のコンサートは、演奏もすごく熱心に見てくださるんですけど、袖から舞台に出るウォーキングの練習とか、ステージマナーとか!この2時間をどう組み立てて、来てくださったお客様にトータルで楽しんでもらうかということを、先生と門下生でディスカッションしたりもしました。お客様は聴くだけでなく一緒にテンションを作ってくれます。場をクリエイトする視点を培うことができたと思います。今話していて思ったんですけど、豊中市立文化芸術センターでのレジデントアーティストなど現在の活動にも、その時の学びが活きている気がします。
―今、心がけていることにはどんなことがありますか?
んー…、笑う!ステージ裏でも笑う!なるべくにこやかにしていたいのと、笑うだけで自分の気持ちが高まるので。気分の浮き沈みや緊張した気持ちを和らげるために笑います。
あと、ステージ上でも普段の練習でも、弾く前にピアノに向かって「よろしくお願いします」、弾き終わったあとは「ありがとう」って言います。本番のピアノは一期一会で、ピアノも生き物なので、その日の相棒と心が通うように。
―お客様とのエピソードはありますか?
イタリアで、コンクールの副賞でリサイタルをさせていただいた時です。ショパンのノクターンを弾いた後、プログラム途中にも関わらず、座っていたおじさまが寄ってきて握手してくれたんです。ありがとう、よかった、と言ってくれて。なんかその距離感がすごく嬉しくて印象的でした。ヨーロッパで思ったのが、暮らしの中に音楽があって、ご飯を食べる、本を読む、みたいに、息をするように自然にクラシックを聴いているんですよね。どんな公演でもお客様が息をひそめるものでなく、日常とリンクするように音楽を届けられたらいいなと思いました。例えば、私の演奏を聴いて、早く誰かに会いたいなとか、大切な人を想ってもいいし、ただただ音楽に没頭するのもいい。それぞれの人生の中に価値のある時間を提供できたらなと。
今この瞬間に通じ合う楽しみ
―ご自身の今にフィットした演奏が、お客様の人生にリンクしていくと
そうだとすごく嬉しいですし、弾いていると…そういう瞬間があって。聴いている人と通じ合えている空気を感じていることがあります。そういうときはすごく醍醐味だなと思います。集中していないということではなくて、そのときにしか感じられない空気や気持ちを楽しむようにしています。…最近かもしれない、楽しめる心の余裕が出てきたのは。
―それはなぜ?
たぶん、音楽を届けるアウトリーチの活動を始めてから。子どもたちは正直で嘘がないんです。例えば、子ども扱いをするように接すると、自分たちのことをそういうふうに見ているんだな、と子どもたち自身が感じて距離ができてしまう。子どもも大人も関係なく向き合おう、と心がけてからは、私の中で心のゆとりが少し持てた気がします。何より、どんどん吸収して成長していく子どもたちを見て、自分に固執していたらダメだなって。私が表現できるもの、私なりに与えられるものが新鮮なものでありたいです。使いまわしでなくて、そのときにしか味わえない時間を楽しむことを、子どもたちから教えてもらったなと思います。
―頭で楽しもうとしているのは大人かもしれない
子どもって、良い意味で音楽に対して先入観がないんです。あ、そうだ。私、クラシックは難しいってフレーズをなくしたくて。もちろん、知識があるからこそ楽しめる面もあるし、敷居を下げたいという意味ではなくて。好き嫌いは当然あっていいですが、食わず嫌いはしてほしくないなあと。聴くタイミングや年齢によっても音楽の感じ方は変化しますし、一度は体感してみて、その時々に感じたものを大切にしてほしいなと思っています。
コラボレーションから
生まれる世界
―琉球音楽や姉妹デュオなどもその例でしょうか。
異文化を重ね合わせる化学反応っておもしろいし、今までにない価値を提供できるんじゃないかなと思います。5年ほど前に、フランスのアルビという街と沖縄の交歓演奏会でのコラボの機会があり、三線とヴァイオリンとピアノ連弾の編成で作曲家の中村透先生に曲を書いていただき初演をしました。ヨーロッパの古いオペラハウスに、琉球楽器の三線と、西洋の楽器が重なる響きに、現地の方もぐっと集中して聴いてくださっている空気感を今でも覚えています。
―姉妹での演奏はどうですか?
毎年一回は故郷である沖縄で、姉妹デュオリサイタルを開催しています。リサイタルは毎年テーマを決めて、味で音楽を例えた回や、世界音楽ワールドツアーという、お客様に行きたい国を選んでもらってその国の曲を演奏するとか。お客様とのやりとりでコンサートを作っていくということもしています。実は「新崎姉妹」のユニット名も、多数決でお客様に選んでもらったんですよ。
―連弾の良さはどんなところですか?
連弾は20本の指を使えるので一人より音域も音量も出来ることが広がるのがすごく魅力。ソロとは全く違う難しさと楽しさがあって、音楽の幅が広がってすごくおもしろいです。
姉妹なので、何も言わずとも音楽の呼吸が揃います。だけど、いざ曲の解釈について話し合うと、まったく別のことを考えていたり!私の演奏はわりと土臭いんですけど(笑)、姉は色彩感があってメロディックと、正反対です。それぞれの個性が活きるようにパート分けもしていますが、最初は苦労した面もありました。解釈や表現を何時間も話し合って、音を交わしながら同時に言葉もたくさん交わすことを大事にしています。意図を共有して一つの作品に向き合うというのは、アンサンブルの醍醐味でもあります。
―これからやっていきたいことはありますか?
社会と多角的に関われる表現者・アーティストでありたいです。私はピアノで音楽を届けることをもって、人と交われるような時間や場所、いろんな形での表現を探求していきたいなと思っています。コラボレーションのように新たな価値を広げていくこともチャレンジしていきたいし、ステージに立つときも、学校などのアウトリーチのときも、その場を作る人がいて演者がいて聴く人がいて初めて成り立つので、人が作り上げる生の空間を大事にしたい。
それで音楽が好きと言ってくれる人がいたら嬉しいし、誰かの日常や生きる活力になれたら、幸せの極みです。いろんな人と交わって作っていくことに、臆せずにおごらずにチャレンジしていきたいと思います。
Photos 大山雄大 / Styling, Hair&Make-up 足立詠美 / Words 浅野晶
Photos 大山雄大
Styling, Hair&Make-up 足立詠美
Words 浅野晶